低温調理の魚の温度と時間|維持時間がゼロ、安全は−20℃24時間の冷凍が担う

この記事でわかること

  • 魚の低温調理には維持時間が無く、総時間が到達時間だけで決まること
  • 温度を決めているのが食感だけで、境目が44℃・50℃・66℃にあること
  • アニサキス・ヒスタミン・腸炎ビブリオが、どれも40〜50℃台では処理できないこと
  • 公表された生存時間の数値を、それでも設定に使わない理由

魚の低温調理のレシピを並べると、温度が38℃から65℃まで散らばっています。サーモンは43℃30分、白身は50℃、蒸し魚のような仕上がりなら65℃。肉の記事にあった「63℃30分」のような、動かせない数字が出てきません。

数字が定まらないのは、書き手がいい加減だからではありません。魚には、温度を下から押さえているものが無いからです。

兄弟の3本——牛の塊肉・豚肉・鶏むね肉——では、加熱殺菌の条件が温度の下限と時間の長さを同時に決めていました。魚では、その条件が加熱の側に立っていません。結果として設定温度は完全に食感の問題になり、時間の式も肉とは違う形になります。

この記事は、魚の設定を「時間」「温度」「安全」の3つに分けて決めます。

魚の低温調理には「維持時間」が無い

答え|中心温度が狙いの値に届いたら、そこで終わり

肉の低温調理では、総調理時間を2つに割って考えました。中心温度が設定温度に届くまでの到達時間と、届いてから加熱条件を満たすまでの維持時間です。豚の63℃30分の「30分」は後者で、中心が63℃に達してから数え始めます。

魚を40〜50℃台で仕上げるとき、この後者が消えます。その温度帯に対応する加熱殺菌条件が、日本では公表されていないからです。厚生労働省が示す同等条件は63℃30分・65℃15分・66℃11分・70℃3分・75℃1分の5組で、いちばん低い側が63℃です。50℃に対する「何分」は、どこにも書かれていません。

維持すべき時間が無いので、総時間は到達時間だけになります。中心温度が狙いの値に届いたら、そこで終わりです。

兄弟3本と式が違う|右側の項が無い

食材温度を決めているもの維持時間の根拠総時間の式
牛の塊肉(低温調理)食感(表面の条件は別に立つ)告示の特定加熱食肉製品の9段階(55℃97分〜63℃瞬時)到達時間 + 維持時間
豚肉安全(規格基準の条文)中心63℃で30分間以上到達時間 + 維持時間
鶏むね肉安全(指針の加熱条件)中心63℃で30分間(65℃なら15分間)到達時間 + 維持時間
魚の切り身(この記事)食感だけ無い。40〜50℃台に対応する公表条件が存在しない到達時間のみ

出典:厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」(同等条件)、同「豚の食肉の基準に関するQ&A」(63℃30分)、内閣府 食品安全委員会「肉を低温で安全においしく調理するコツをお教えします!」(中心温度の定義と維持時間の数え方)。温度はすべて中心温度で、湯の温度とは区別しています。魚の行の「維持時間が無い」は「加熱しなくてよい」という意味ではありません。40〜50℃台は殺菌条件ではないので、寄生虫を冷凍で処理した魚を使うことが前提になります(後述)。

だから魚には「入れすぎ」がある

肉では、湯に長く入れることが安全の側に働きました。維持時間が伸びるだけで、条件を下回る心配が減ります。魚では逆です。長く入れても安全は増えず、身が締まって水分が抜け、層がほどけて崩れるだけです。

肉の設定には下限があり、魚の設定には上限があります。同じ「温度と時間」という言葉で書かれていても、守るべき向きが反対を向いています。

この記事で使う言葉

中心温度は、食品安全委員会の定義にならって「肉の三か所の温度を測定した中で最も低い最低温度」の意味で使います。湯の温度とは別の値です。低温調理では湯温を狙いの中心温度に固定するので、中心温度が湯温を超えることはありません。

温度を決めているのは食感だけ|44℃・50℃・66℃の3つの境

魚のミオシンは44〜45℃で変性を始める

温度を縛るものが安全側に無いので、残るのは食感だけです。魚の身が変わる温度には、3つの境目があります。

中心温度(℃)何が起きるか身の状態
44〜45魚のミオシン(筋繊維のタンパク質)が変性を始める半透明から白へ変わり始める
50魚のミオシンが凝固する箸で押すと層に分かれる。生の面影が残る最後の温度帯
66アクチン(筋繊維のもう1つのタンパク質)が変性を始める筋繊維が縮んで水分を押し出す。66℃以上はパサつく

出典:タンパク質変性の科学(魚のミオシンは44〜45℃で変性開始・50℃で凝固、アクチンは66℃で変性開始)。変性温度はpH・濃度・昇温速度で数℃動き、魚種による差も大きい値です。この表は食感の境目であり、殺菌条件ではありません。

畜肉のミオシンが50℃で変性を始めるのに対し、魚は44〜45℃です。魚のほうが5℃ほど早く火が入ります。低温調理の温度帯が魚だけ下にあるのは、この差が出発点です。

魚のコラーゲンは40〜50℃で溶ける|牛と正反対の意味を持つ

もう1つ、魚に固有の性質があります。魚のコラーゲンは40〜50℃付近からゼラチン化が始まります。畜肉のコラーゲンが同じ状態になるには、もっと高い温度か、もっと長い時間が要ります。

この差が、時間の使い方を反転させます。畜肉では、コラーゲンのゼラチン化が肉の崩れるところまで進むのに、低温調理でも60〜65℃で24〜72時間かかります。牛の塊肉を何時間も置くのはそのためです。魚では、狙いの温度に届いた時点でコラーゲンが溶け始めています。時間を使う理由が最初から無いのです。

同じ性質は、裏側から見ると弱点になります。魚が「ほろりと崩れる」のは、筋節をつなぐ結合組織が緩んで層がほどけるからです。それが低温調理の温度帯で既に進むので、置けば置くほど崩れます。牛は長く置くほどまとまり、魚は長く置くほどばらけます。

早見表の50〜52℃はこの窓のどこか

サイトの早見表(低温調理の技術)はサーモンを50〜52℃としています。上の表と重ねると、ミオシンが凝固しきる側の端です。層に分かれる食感が残る最後の温度帯で、これより上げると蒸し魚の質感に変わります。

なお、魚の火入れは最適な中心温度を60〜65℃としています。50℃前後と食い違って見えますが、扱っている加熱が違います。焼く・煮る・蒸すでは中心温度を狙って止めることができず、火を止めた後も上がり続けるので、実務の狙いは上側に寄ります。低温調理は湯温が上限になるので、下側の温度帯を狙えます。50℃前後の仕上がりは、温度を保持できる加熱でしか作れません。

安全は温度ではなく材料で決まっている

危害要因は3つあり、どれも加熱の設定では処理できない

ここまで「安全が温度を縛らない」と書いてきましたが、魚に危険が無いという意味ではありません。危険はあります。ただしどれも40〜50℃台の加熱では処理できないので、加熱の設定と無関係なところに置かれています。

危害要因正体何で処理するか40〜50℃台で処理できるか
アニサキス寄生虫(線虫類)。約2〜3cmの白い糸状加熱60℃で1分間・70℃以上、または冷凍−20℃で24時間以上できない。どちらの条件にも届かない
ヒスタミン魚肉中のヒスチジンから菌の酵素が作る化学物質生成させない(死んだ瞬間からの低温管理)できない。熱に安定で、加熱しても壊れない
腸炎ビブリオ沿岸の海水中・海泥中にいる好塩菌。水温15℃以上で活発になる流水(水道水)での洗浄・4℃以下での保存・加熱(中心部まで60℃で10分間以上)できない。60℃10分に届かず、40〜50℃台は増殖を止める温度でもない

出典:厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」(予防方法の4項目)、内閣府 食品安全委員会 ファクトシート「ヒスタミン(概要)」(熱に安定で調理加工工程で除去できない)、東京都保健医療局「食品衛生の窓」腸炎ビブリオ(菌の特徴と予防方法)。

アニサキス|60℃1分・70℃以上、または−20℃で24時間以上

厚生労働省のリーフレットは、予防方法を4つ挙げています。

  1. 加熱する。(60℃で1分、70℃以上)
  2. 冷凍する。(−20℃で24時間以上)
  3. 新鮮な魚を選び、速やかに内臓を取り除く。内臓を生で食べない
  4. 目視で確認して、アニサキス幼虫を除去する

同じリーフレットには「一般的な料理で使う程度の食酢での処理、塩漬け、しょうゆやわさびでは、アニサキス幼虫は死滅しない」と明記されています。締めれば大丈夫、にはなりません。

3番目が筋肉に残る数を減らす理由も書かれています。アニサキス幼虫は、寄生している魚介類が死亡すると、腹腔内(内臓)から筋肉部位に移動します。マサバ96尾を4℃と20℃で20時間保存して比べた実験では、太平洋側のマサバに多いアニサキス・シンプレックスで、筋肉への移行率が4℃保存の9.3%に対し20℃保存では19.2%でした。どう運ばれてきたかが、食べる部位に残る数を変えています。

40℃ 50℃ 60℃ 70℃ 魚の食感の窓(44℃ミオシン変性開始 〜 66℃アクチン変性開始) 実務で選ぶ 45〜55℃ 66℃以上はパサつく アニサキスを加熱で処理する条件(厚生労働省) 条件に届かない温度 60℃で1分間以上・70℃以上 冷凍で処理する条件は −20℃で24時間以上。この軸の左の外側にあります 橙=食感で選ぶ温度。緑=加熱で寄生虫を処理できる温度。橙と緑は重なりません
実務で選ぶ45〜55℃は、加熱でアニサキスを処理する条件(60℃で1分間以上)に届いていない。だから処理は冷凍の側で、料理を始める前に終わらせておく

ヒスタミン|加熱では壊れない

ヒスタミンは、魚肉に含まれるヒスチジンというアミノ酸に、ヒスタミン生成菌が持つ酵素が作用して生まれます。材料になるヒスチジンの量は、魚の種類で桁が違います。

魚の区分遊離ヒスチジン含量(mg/100g)該当する魚
白身魚数mg〜数十mgタイ・ヒラメ・タラなど
赤身魚700〜1,800mgイワシ・マグロ・カジキ・ブリ・アジなど

出典:内閣府 食品安全委員会 ファクトシート「ヒスタミン(概要)」。この表はヒスタミンの材料の量であり、危険かどうかの判定値ではありません。

一旦魚肉の中でつくられたヒスタミンは熱に強く、加熱料理しても分解されません。一度できてしまえば、何℃で何分加熱しても減りません。だから予防は「やっつける」ではなく「増やさない」側にしかなく、示されている対策は「魚を保存する場合は、速やかに冷蔵・冷凍し、常温での放置時間を最小限とする」ことです。しかも同じ資料は、この菌が持つ酵素が冷凍状態では働かないものの、4℃の冷蔵温度帯では活性があると書いています。冷蔵に入れておけば止まる、でもありません。

低温調理は、この観点では注意の要る操作です。魚を冷蔵庫の外に1時間以上置くので、「常温での放置時間を最小限とする」という予防の考え方からは外れる方向に働きます。加熱の後に温かいまま置くのも同じです。だから原料の側で条件を満たしておくことが前提になります。

判断を難しくするのが、見た目と匂いが当てにならないことです。同じ資料は「腐敗臭等外観の状態とヒスタミン含有量には相関がなく、臭気が無くてもヒスタミン含有量が高いものがある」としています。鼻で確かめて大丈夫、が成り立ちません。

腸炎ビブリオ|真水と低温で管理する

腸炎ビブリオは沿岸の海水中や海泥中にいる細菌で、水温が15℃以上になると活発に活動します。他の食中毒菌よりも速く増殖するのが特徴です。熱には弱く、加熱調理するなら中心部まで60℃で10分間以上とされていますが、40〜50℃台はその条件に届きません。

一方でこの菌は好塩菌の一種で、真水(水道水)の中では増殖しません。だから予防として示されているのは、調理前に流水(水道水)でよく洗って菌を洗い流すこと、調理器具を洗浄・消毒して二次汚染を防ぐこと、冷蔵庫でできれば4℃以下に保存することの3つです。処理の手段が、加熱ではなく下処理と保存温度の側にあります。

だから「生食用」「冷凍処理済み」が設定より先に立つ

3つ並べると、共通の構造が見えます。魚の危害要因はどれも、加熱の設定より前の段階で処理が終わっていることを前提にしています。

  • アニサキス → 冷凍処理された魚を選ぶ(または60℃で1分間以上・70℃以上で加熱する)
  • ヒスタミン → 低温で流通・保存されてきた魚を選ぶ
  • 腸炎ビブリオ → 低温で運ばれ、下処理された魚を選ぶ

低温調理の設定温度が食感だけで決まるのは、安全の側が既に材料の選択で終わっているからです。豚では中心温度が安全の条件そのものでしたが、魚では中心温度が安全に一切関与しません。この違いが、兄弟記事との分かれ目の本体です。

45℃78分・50℃10秒を設定に使わない

ファクトシートには温度ごとの生存時間が載っている

ここまで「40〜50℃台では処理できない」と書いてきましたが、一次資料を読むと、実はその温度帯の数値が載っています。食品安全委員会のファクトシート「アニサキス症」が参考データとして挙げている、加熱したときの幼虫の最大生存時間です。

加熱の温度(℃)アニサキス属の幼虫の最大生存時間シュードテラノバ属の幼虫の最大生存時間
40記載なし57時間
4578分30分
5010秒10分
5510秒記載なし
601秒1分

出典:内閣府 食品安全委員会 ファクトシート「アニサキス症」の参考データ。これは「加熱したとき幼虫が最大でどれだけ生き延びたか」の実験値であり、死滅を保証する条件として公表されたものではありません。調理の設定に使わないでください。

それでも使わない3つの理由

数字が公表されていることと、それを調理の設定に使えることは別です。理由は3つあります。

  1. 虫種で桁が違います。50℃での最大生存時間は、アニサキス属で10秒、シュードテラノバ属で10分。60倍の開きがあります。手元の切り身に何が寄生しているかを、調理する側は知りません
  2. 「最大生存時間」は死滅条件ではありません。同じファクトシートの予防方法の節に書かれているのは、60℃で1分・70℃以上・−20℃以下で24時間以上の3つだけです。参考データと予防方法は別の役割で載っています
  3. 試験管の中の温度と、切り身の中心温度は別です。この表の値は加熱された試料の温度であって、袋に入れた切り身の中心が何分でその温度に届くかは含まれていません。到達を測れなければ、時間を数え始めることもできません

このサイトでは、公表された条件の外にある温度の時間を自分で計算して載せません。豚の記事で「62℃50分」を採らなかったのと同じ判断です。計算の道具(D値・Z値)が理解のためのもので条件を作るためのものではないことは、75℃1分と63℃30分が同等な理由が扱っています。

各国が持ち出しているのは冷凍の条件

参考データを外すと、残るのは前の節で見た予防方法だけです。そしてそれは日本に限りません。同じリーフレットが紹介しているところでは、コーデックスが中心部の加熱60℃で1分又は冷凍−20℃で24時間、生食用の魚は−20℃で7日間又は−35℃で20時間の冷凍を挙げ、EUは生食用の魚・軟体動物に−35℃で15時間以上又は−20℃で24時間以上の冷凍を義務付け、米国は−35℃以下で15時間以上又は−20℃以下で7日間以上の冷凍を勧告しています。生で食べる前提の魚に対して、各国が持ち出しているのは冷凍の条件です。

手元の切り身で設定を決める

公表された到達時間の実測値に魚は無い

総時間が到達時間だけで決まるので、到達時間の見積もりがそのまま設定になります。ところが、公表されている実測値に魚はありません。

食材と大きさ湯の温度中心が63℃に届くまで
鶏ムネ肉 約300g(厚さ約3cm)63℃平均68分
牛モモ肉 約300g(厚さ約3cm)63℃約94分
牛モモ肉 760g(18cm×9cm×厚さ6cm)70℃180分
魚の切り身—公表された実測値なし

出典:内閣府 食品安全委員会「肉を低温で安全においしく調理するコツをお教えします!」。温度はすべて中心温度です。時間を到達と維持に割る考え方そのものは鶏むね肉の低温調理が扱っているので、ここでは繰り返しません。

魚は肉より薄いので到達は速いはずですが、何分かは公表されていません。確かめる手段は中心温度計だけです。レシピの「30分」は到達時間の目安であって、そこに殺菌の意味はありません。

切り身は厚みが揃わない

肉の塊は成形して厚みを揃えられますが、切り身はそうはいきません。腹側は薄く背側は厚く、尾に向かうほど細くなります。同じ1切れの中に、倍近い厚みの差があることも珍しくありません。

やることは2つです。厚い側(背側)に中心温度計を刺すか、薄い側と厚い側を別々の袋にして時間をずらす。薄い側に合わせて出すと厚い側が生になり、厚い側に合わせて置くと薄い側が崩れます。

家庭の冷凍庫で冷凍処理を代替できるか

冷凍で処理すればよいなら自分で凍らせれば済む、とは行きません。冷凍の温度には3つの基準があり、値がそれぞれ違います。

温度何の基準か出典
−20℃で24時間以上アニサキスを処理する条件厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」
−18℃以下冷凍食品の保管温度コーデックス委員会の国際基準/一般社団法人 日本冷凍食品協会の認定基準
−15℃以下冷凍食品の保存基準食品衛生法の規格基準

アニサキスの条件がいちばん低く、冷凍食品の保管温度より2℃、法令の保存基準より5℃下にあります。家庭の冷凍室が目指しているのは下の2つの側で、アニサキスの条件ではありません。加えて家庭の冷凍室は扉の開閉で庫内温度が動き、食品の中心が何℃まで下がったかを測る手段もありません。

冷凍で処理したいなら、処理済みで流通しているものを選ぶのが確実です。凍結と解凍が身に何をするかは冷凍と解凍の科学にあります。

前提|この設定が成り立つ条件

  • 生食用として流通している魚、または冷凍処理された魚であること。加熱用として売られている魚を40〜50℃台で仕上げないこと
  • 低温で運ばれ、低温で保存されてきたこと。ヒスタミンは後から加熱しても減りません
  • 中心温度計で狙いの温度への到達を確認できること。魚には温度計なしで成り立たせるための実測値がありません
  • 仕上げた後に温かいまま置かないこと。加熱後の扱いは低温調理の安全条件と危険温度帯が扱っています
  • 高齢者・小児・妊娠している人・免疫が落ちている人には、生に近い状態の魚を出さないこと

食材別の中でのこの記事の立ち位置

兄弟との違い|安全が温度に一切関与しないのは魚だけ

食材温度を決めているもの維持時間の根拠長く入れるとどうなるか
牛の塊肉食感(中心)と安全(表面)が別々に立つ告示の9段階の表コラーゲンが溶けてまとまる。安全側にも働く
豚肉安全。規格基準の条文が下限を決める中心63℃で30分間以上安全側に働く
鶏むね肉安全。指針の加熱条件が食感の下限まで決める中心63℃で30分間安全側に働くが、66℃以上はパサつく
魚の切り身(この記事)食感だけ。安全は加熱の外で処理済み無い崩れて水分が抜ける。安全は増えない
卵白身と黄身の凝固温度の差下限という形で存在しない黄身まで固まる

① 成り立ちの違い。肉の3本では、加熱殺菌の条件が時間の長さを決めていました。魚では、危害要因が加熱の外(冷凍・低温管理・下処理)で処理されるので、加熱の側に条件が立ちません。この違いが、式から維持時間の項を消しています。

② 仕上がりの違い。50℃前後の魚は、半透明から白へ変わりきる手前で止まります。箸で押すと層に分かれ、断面には生の面影が層として残ります。牛の低温調理のような均一な赤とは見え方が違い、色ではなく層のほどけ方で火の入り具合が出ます。60℃を超えると層が消えて、蒸し魚の質感になります。

③ だからどんな料理で選ぶか。サーモンのミキュイ、鯛やスズキを使う温かい前菜、脂の多い魚を温度で仕上げたいとき。逆に向かないのが3つあります。煮汁を含ませたい煮魚(低温調理では味が入りません)、形を崩さずに盛りたい料理(層がほどけます)、そして下処理と冷凍の履歴が分からない魚です。3つめは食感ではなく安全の理由で外します。

親の低温調理の食材別の温度と時間は、この分かれ目を「危険が表面にいるか内部にいるか」で整理しています。魚はそのどちらでもなく、危険を加熱で処理しない側として並びます。

この記事が答えていないこと

まとめ

  1. 総時間は到達時間だけです。40〜50℃台に対応する加熱殺菌条件が公表されていないので、維持すべき時間が存在しません。中心温度が狙いの値に届いたら出します。長く入れる理由が1つもありません
  2. 温度は食感だけが決めます。44〜45℃で魚のミオシンが変性を始め、50℃で凝固し、66℃でアクチンが縮みます。サイトの早見表のサーモン50〜52℃は、層に分かれる食感が残る最後の温度帯です
  3. 安全は設定温度の外にあります。アニサキスは加熱ではなく冷凍で、ヒスタミンは加熱では壊れないので低温管理で、腸炎ビブリオは真水での洗浄と冷蔵で処理します。40〜50℃台はどれも処理しないので、材料を選ぶ段階で終わらせておきます

魚の設定を自分で決められるようになるというのは、温度の数字を覚えることではありません。温度が食感しか決めていないと知り、安全の側を買い物の段階に移しておくことです。そこまでできていれば、何℃にするかは狙う食感だけの問題になります。

よくある失敗と対策

煮崩れた部分的
なぜ
筋節をつなぐ結合組織が溶けました。魚のコラーゲンは40〜50℃でゼラチン化を始めるため、湯に置くほど層がほどけます
どうする
崩れた身はほぐしてソースと和え、別の一皿として出します。形は戻りません
次から
中心温度が狙いの値に届いたら出します。魚には維持すべき時間が無いので、延長は食感を壊す方向にしか働きません
パサついた部分的
なぜ
中心温度が66℃に達してアクチンが変性し、筋繊維が縮んで水分を押し出しました
どうする
オイルやソースを絡めて水分を補い、温かいうちに出します
次から
設定温度を66℃より下に置きます。低温調理では湯温が中心温度の上限になるので、湯温の設定がそのまま歯止めになります
中が生だった回復できる
なぜ
中心のミオシンが変性しきる前に取り出しました。魚の到達時間に公表された実測値が無く、時計では判断できません
どうする
湯に戻し、中心温度計で狙いの値への到達を確認してから取り出します
次から
厚い側(背側)に中心温度計を刺し、到達を確認してから出します。分数は目安にしかなりません
生臭い部分的
なぜ
低温調理の温度帯では魚の匂い成分が揮発せず、袋の中に留まったまま供されました
どうする
仕上げに表面を高温で焼くか、柑橘の酸を添えて匂い成分を抑えます
次から
加熱の前に塩を振って出た水分を拭き取り、匂い成分を持つ水分を減らしてから袋に入れます