牛肉の表面殺菌は深さ1cmを60℃で2分|焼き目では届かない理由

牛肉の表面殺菌は深さ1cmを60℃で2分|焼き目では届かない理由

この記事でわかること

  • 牛肉の「表面を殺菌する」が、深さ何cmを何℃で何分のことか
  • 測れない深さ1cmの温度を、湯の温度と時間に置き換えて満たす方法
  • フライパンの焼き目が、なぜこの条件を満たした証拠にならないのか
  • 低温調理のローストビーフで、表面の条件を別に確かめる必要があるのはどんなときか

ローストビーフや牛タタキを作るとき、「牛は菌が表面にしかいないから、表面をしっかり焼けば中は赤くても大丈夫」と教わることがあります。半分は正しい説明です。牛の塊肉では、腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌は主に表面を汚染していると評価されていて、表面を加熱すれば食中毒のリスクを下げられます(内閣府 食品安全委員会「豚の食肉の生食に係るQ&A」)。

ただ、その「表面」がどこまでを指し、何℃で何分やれば「処理した」と言えるのかは、ほとんど語られません。フライパンで全面に焼き色を付けたら、それで条件を満たしたことになるのでしょうか。

この記事が扱うのは、低温調理の安全条件のうち「菌を殺す条件」を、表面という場所に限って見たものです。先に答えを書くと、条件は表面から深さ1cm以上の部分までを60℃で2分以上で、フライパンの焼き目はこの条件を測っておらず、国の検証で条件を満たした加熱とは量が大きく違います。中心の温度と時間の表(55℃97分〜63℃瞬時)は低温調理のローストビーフの温度と時間に、何℃で何分が同じ効果になるかは75℃1分と63℃30分が同等な理由にあります。

表面の条件は「深さ1cm以上を60℃で2分以上」

告示の原文|袋に密封して加熱し、4℃以下まで冷やすまでが1つの条件

表面の条件が数値で書かれているのは、平成23年10月1日に施行された生食用食肉(牛肉)の規格基準です。ユッケ、タルタルステーキ、牛刺し、牛タタキが対象で、同年4月に飲食チェーン店で腸管出血性大腸菌による食中毒が起き、5名が亡くなったことを受けて、罰則付きの基準になりました。

加工基準(7)の原文はこうです。

肉塊は、処理後速やかに、気密性のある清潔で衛生的な容器包装に入れ、密封し、肉塊の表面から深さ1cm以上の部分までを60°で2分間以上加熱する方法又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌を行つた後、速やかに4°以下に冷却しなければならない

この1文には3つの操作が入っています。

加工基準(7)の操作中身抜けると起きること
袋に入れて密封する気密性のある清潔な容器包装に入れ、密封してから加熱する加熱した後の表面に、まな板や手から菌が付き直す
深さ1cmを60℃で2分以上表面から1cm以上内側の点が60℃に届き、そこから2分以上保つ表面だけ熱くなり、1cmまで入り込んだ菌が残る
速やかに4℃以下へ冷やす加熱を止め、中まで熱が入るのを止めて保存温度へ下げる中心まで火が通り続けるか、生き残った菌が増える温度に長くいる

出典:食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)生食用食肉の加工基準(7)。

条件は「焼く」とも「湯に入れる」とも書いていませんが、袋に密封してから加熱するので、実際の加熱は湯で行うことになります。

なぜ面ではなく深さ1cmなのか|菌は1時間で1cmに入る

「表面」が深さで書かれている理由は、規格基準を作るときの試験にあります。厚生労働省「生食用食肉(牛肉)の規格基準設定に関するQ&A」(Q4)は、試験で次のことが分かったと書いています。

規格基準を作るときに得られた知見値・内容
菌が1cmに達するまでの時間菌体を生肉に付けてから1時間後に、肉塊の表面から1cmの部分で菌体が検出された
熟成との関係牛のとさつ・解体後、熟成が進むにつれ、腸管出血性大腸菌がより深部に入り込む
60℃2分の効果肉塊表面の0.5〜1cm以上の部分までを60℃で2分間加熱すると、菌数を1万分の1以下に減らせると期待できる

出典:厚生労働省「生食用食肉(牛肉)の規格基準設定に関するQ&A」Q4。

「菌は表面にいる」の表面は、厚みのある層です。だから条件も、面の温度ではなく、1cm内側の温度で書かれています。そして60℃2分は菌をゼロにする条件ではなく、1万分の1以下に減らす条件です。加熱は菌を決めた割合まで減らす操作であって、ゼロにする操作ではありません(低温調理の安全は温度と時間だけでは決まらないの条件①)。

条件が成り立つ前提|凍らせない・熟成させない・刺さない・漬けない・すぐ加熱する

深さ1cmで足りるのは、菌が1cmより奥に入っていない肉だけです。規格基準は、その状態を保つための前提を加工基準(5)(6)とQ&Aで並べています。

前提規格基準・Q&Aの根拠崩れると何が起きるか
凍結させていない肉塊加工基準(6)。Q16「凍結した場合にも肉塊の組織が壊れ、菌が肉塊内部に浸潤しやすくなる」菌が1cmより奥に入りやすくなる
熟成させていない肉塊Q17「保存(熟成)された枝肉の使用は、認められません」。枝肉(えだにく)は、と殺後に背骨で2つに割った肉熟成が進むほど菌が深部へ入る(Q4①)
刃で筋を切る処理・調味液に漬ける処理をしない加工基準(5)。テンダライズ・タンブリング・調味液に漬け込む処理を禁止(Q15)表面の菌が内部へ運ばれる
切り出したら速やかに加熱する加工基準(7)「処理後速やかに」。Q18時間とともに菌が奥へ進む

出典:食品、添加物等の規格基準 生食用食肉の加工基準(5)〜(7)、厚生労働省 前掲Q&A Q15〜Q18。

この前提が崩れた肉では、1cmを処理しても足りません。牛タタキの事例で「調味過程で原料肉の表面汚染が内部へ浸透した」とされたことや、刺す・漬ける・挽くで条件が中心の側に戻る話は、低温調理のローストビーフの温度と時間で扱っています。

深さ1cmは測れない|だから湯の温度と時間で条件を作る

同じ大きさの肉の1cmに温度計を刺して、湯温と時間を測る

60℃2分を測る場所は、表面から1cmの内側です。ところが、売り物にする肉に毎回温度計を刺すわけにはいきません。厚生労働省のQ&A(Q19)は、この問いにそのまま答えています。

手順は2段です。

  1. 加工を始める前に1回、条件を作る。 実際に加工するのと同じ大きさの肉塊を用意し、表面から1cmの深さに自記温度計(温度を記録し続ける温度計)を差し込んだ状態で加熱する。温度計が60℃に達した時点から2分間その温度を保てる湯温(加熱開始時と加熱中の最低温度)と加熱時間を記録する
  2. 加工のたびに、湯温と時間を記録する。 1で決めた湯温と時間を守っていれば、肉の内部の温度を直接測らなくてよい。記録は1年間保存する

1cmの深さに温度計を置くときは、肉の平らな面から垂直に1cmだけ刺すのではなく、側面から表面と平行に、表面から1cm下の位置へ深く差し込みます。垂直に1cmだけでは感温部が浅く、熱が温度計の軸を伝って逃げて実際より低く出ます(挿入深さの原理は低温調理の中心温度の測り方)。差し込む前に、軸の先端からの長さにテープで印を付けておくと、深さが毎回そろいます。

つまり、表面の条件は「1cmの温度」で定義されていますが、実際の作業では「この重さ・この形の肉を、何Lの何℃の湯で何分」という湯の側の数値に置き換えて満たします。岡山市の点検表も、条件を「○○○gの○○の部位の肉塊を、○○㍑の○○℃の湯で○○分間加熱した場合」という形で施設ごとに決めるよう求めています。

国の検証例は250〜300gを85℃の湯約10Lで10分、そのあと氷冷

規格基準を検討したときの実証例も、Q&Aに載っています。

項目規格基準の検討で条件を満たした例
肉塊250〜300g。と殺4日以内のしんたま(シンタマ)又はうちもも部分の直立体(ちょくりったい。直方体のように平らな面で囲んだ形に切り出した塊)
湯の量約10L
湯の温度85℃
加熱時間10分間
加熱後氷冷
結果肉塊の表面から1cm以上の部分までを60℃で2分間以上加熱するという条件を満たした

出典:厚生労働省 前掲Q&A Q19、同「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」(平成23年9月12日 食安発0912第7号)第4の4(5)。

Q&Aは湯を85℃にした理由を書いていませんが、熱の伝わり方から読むと、1cmの層だけを短い時間で60℃より上に押し上げ、中心まで熱が入る前に氷で止めるための温度です。60℃の湯では、1cmの層は60℃にじわじわ近づくだけで、そこに届くころには中まで温まっています。湯温を上げるほど、表面側と中心側の温度差が大きく開きます。

同じ運用上の注意(6)は、袋に入れて湯で加熱するときは「肉塊表面に熱が均一に伝わるよう、十分に脱気すること」と書いています。袋に空気が残ると、その部分の表面は湯に触れず、熱の入りが遅れます。真空パックの安全上の問題は袋の中の酸素の話でしたが、ここでの脱気は熱を均一に伝えるためで、理由が別です。

条件を動かす要素|検証例をそのまま使えないとき

Q19は、1cmを60℃で2分保つのに必要な湯温と時間が、次の要素で変わると書いています。検証例の数値は、検証例と同じ条件の肉にしか当てはまりません。

要素変わる向き
重量・形状厚く大きい肉ほど、湯に入れた直後に湯温を大きく下げる。形が直方体から崩れると、角と平らな面とで熱の入り方が違う
部位脂や筋の入り方で熱の伝わり方が違う
鮮度熟成が進んだ肉は菌が深部へ入っている(Q4①)。そもそも1cmの条件の前提から外れる
湯量湯が少ないと、肉を入れた瞬間に湯温が落ちて戻るまで時間がかかる。検証例は300gの肉に約10L
湯温の変化加熱中に下がった最低の湯温で条件を作る(Q19 は「加熱開始時及び加熱中の湯温の最低温度」を記録させる)
加熱の方法湯の対流、袋の密着、重ねて入れるかどうかで表面への熱の伝わり方が変わる

出典:厚生労働省 前掲Q&A Q19。

フライパンの焼き目はこの条件を満たしていない

ここまでを踏まえて、最初の問いに戻ります。フライパンで全面に焼き色を付けることは、深さ1cmを60℃で2分以上という条件を満たしているのでしょうか。3つの独立した根拠が、満たしていないと示しています。

熱が1cmに届く時間|85℃の湯で全面を包んでも10分かかる深さ

焼き色が付くのは、表面がメイラード反応の起きる140℃以上に上がったときです。これは表面の数ミリの温度の結果で、1cm内側の温度については何も教えてくれません。

さらに、加熱の量が違います。検証例は、300g前後の肉の全面を85℃の湯で同時に包み、10分加熱しています。フライパンは1面ずつしか鍋肌に触れず、焼き色を付けるために1面を焼く時間は数分です。鍋肌に触れていない面は、そのあいだ熱源から離れています。強い火で短く焼けば、色は付いても1cm内側は60℃に届きません。弱い火で長く焼けば1cmに届くかもしれませんが、その時点で中心の温度も上がっていきます。なお、フライパンで焼いたときの1cmの温度を実測した公的な資料は見つけられませんでした。ここに書いたのは、温度が届く時間は深さのおよそ2乗で増えるという原理からの推論です。

どちらの場合も、焼いた人は1cmの温度を測っていません。焼き色が付いたことは、条件を満たした証拠になりません。

フライパンで焼き色を付けた肉袋に密封して85℃の湯で10分(検証例)破線=表面から1cm1cmの層は60℃に届かない熱いのは鍋肌に触れた面の数ミリだけ1面ずつ数分。触れていない面は熱源から離れている全面から1cmの層:60℃で2分以上中心は生のまま全面を同時に包み、1cmの層まで処理する250〜300g・湯約10L・85℃・10分→氷冷条件は「表面の温度」ではなく「表面から1cm内側の温度」で決まる
焼き色が示すのは表面の数ミリの温度だけ。条件を満たすには、全面から1cmの層までを60℃に上げる加熱が要る

直火で焼いて1cm削るのを2回やっても、菌は残った

岡山市保健所の検査課が、焼いて削る処理でどこまで菌を落とせるかを調べています。判定に使ったのは腸内細菌科菌群(ちょうないさいきんかぐん)で、腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌を含む菌のまとまりです。生食用食肉の規格基準も、この菌群が「陰性」であることを求めています。

検査の条件内容
肉牛モモ肉塊 500〜700g
汚染のさせ方大腸菌10万個を含む液を表面全体に塗り、4℃で1時間または20時間置く
処理焼き網とコンロの直火で、表面に焼き目が付くまで十分に焼いてから、表面下約1cmを切り取る。これを2回繰り返す
処理後の重さ処理前の平均31.4%まで減った
腸内細菌科菌群の陽性率(血管を含む部位)83.3%(12検体中10)
腸内細菌科菌群の陽性率(筋肉だけの部位)37.5%(16検体中6)

出典:岡山市保健所検査課「生食用食肉の規格基準に関する一考察」。

肉の7割近くを焼いて削り落としても、菌は残りました。検査課は理由を2つ挙げています。1つは肉表面の水分に浮いた菌が、処理中に切り口へ付き直したこと。もう1つは血管で、菌を血管の開口部に垂らすと、長さ約5cmの血管の内側のすべての位置から大腸菌が見つかりました。血管の開口部に菌が付けば、1cmより奥まで入りうるということです。

この検査は、規格基準の方法(袋に入れて湯で加熱)を試したものではありません(検査課も、規格基準の熱処理方法で同じ検査をする予定だと書いています)。分かるのは、焼き目を付けて表面を削る処理は、規格基準の方法の代わりにならないということです。

国は「焼いて冷やしたレアの肉」を生の肉として扱う

令和4年9月16日、厚生労働省は都道府県などに「腸管出血性大腸菌による食中毒防止の徹底について」を通知しました。きっかけは京都府などで起きた食中毒で、食料品店が売った「ローストビーフ」と「レアステーキ」から腸管出血性大腸菌O157の患者が出て、9月15日時点で有症者22名、ほかに「レアステーキ」を食べた90代の女性1名が亡くなっています。「レアステーキ」は加熱による変色が無い部分の細切りで、実態はユッケでした。

通知はこう書いています。

なお、食肉の表面を焼いた後に冷却したもので、中心部まで十分に加熱されていないものは、生食用食肉として取り扱うこと。

表面を焼いて冷やし、中を赤く残した牛肉は、国の扱いでは焼いた肉ではなく生の肉です。生の肉として売るなら、規格基準の加工(専用の設備、講習を受けた人、湯での加熱殺菌と記録、腸内細菌科菌群の検査)が全部要ります。栃木県も、生食用の牛肉の案内で「湯引き(ゆびき)等の簡易な加熱方法では食中毒菌を殺せません」と書いています(湯引きは、熱湯にくぐらせて表面だけ白くする下処理です)。

4つの処理を並べる

処理熱を入れる場所深さ1cmの温度を確かめているか1cmで60℃2分を満たすと確かめられた例
規格基準の方法(袋に入れて湯で加熱→4℃以下)全面を同時に事前に同じ大きさの肉の1cmで測り、湯温と時間に置き換えるある(250〜300g・85℃・約10L・10分・氷冷)
フライパンで全面に焼き色を付ける1面ずつ確かめていない無い
湯引き(ゆびき)・霜降り(しもふり)(熱湯にくぐらせる・かける)全面、ただし数秒〜数十秒確かめていない無い。栃木県は「湯引き等の簡易な加熱方法では食中毒菌を殺せません」
直火で焼き目を付けて表面1cmを削る(2回)1面ずつ+切除確かめていない無い。処理後も菌が検出された(岡山市保健所)

出典:食品、添加物等の規格基準 生食用食肉の加工基準(7)、厚生労働省 前掲Q&A Q19、栃木県「生食用の牛肉の基準が定められました」、岡山市保健所検査課 前掲。

焼き目そのものの技術、つまり香ばしさと色をどう付けるかは焼き目と炙りの技術にあります。ここで確かめたのは、焼いたかどうかと、表面の条件を満たしたかどうかは別のことだという点です。

低温調理では、湯温60℃未満だと表面の条件は満たせない

湯温より高くはならない|60℃未満の湯では1cmは60℃に届かない

低温調理の湯の中で、肉が湯より熱くなることはありません。湯温55〜59℃でローストビーフを作ると、深さ1cmの層は何時間置いても60℃に届きません。だから「1cmを60℃で2分」という形では、表面の条件を満たせません。

中心が基準の時間を満たしているなら、表面はそれより長く高い温度にいた

では、湯温55℃のローストビーフは表面の殺菌が足りないのかというと、そうではありません。牛の塊肉の中心には、特定加熱食肉製品の製造基準(中心55℃で97分、57℃で43分、60℃で12分、63℃で瞬時など9段階。以下「中心の基準」)があります。

湯に沈めた肉では、外側から先に温まり、中心が最後に届きます(中心が最も遅く温まる点だという原理は低温調理の中心温度の測り方にあります)。中心が55℃で97分を満たしたなら、表面から1cmの層は中心より先に55℃に届き、中心より長く55℃以上にいました。中心の基準を満たす作り方なら、表面の条件を別に確かめる必要はありません(中心の基準には、中心が35℃以上52℃未満にいる時間を170分以内にするなどの条件も付いています。中身は低温調理のローストビーフの温度と時間にあります)。厚生労働省のQ&A(Q3-1)も、特定加熱食肉製品のローストビーフは「製造過程において中心部分まで加熱殺菌されるもの」なので生食用食肉の規格基準の対象ではない、と書いています。

中心を基準より下で止めるなら、表面の条件を別に満たす工程が要る

表面の条件が独立して意味を持つのは、中心を中心の基準より下で止める料理、つまり牛タタキや、中心を生のまま残すローストビーフだけです。そして令和4年の通知のとおり、それは生の肉として扱われます。

家庭でこの道を選ぶのが難しいのは、湯温と時間の問題ではなく、前提を確かめられないからです。規格基準の検証例は「と殺4日以内」の肉で、熟成させた枝肉の使用は認められていません。食品安全委員会は「冷蔵保管が長くなり肉の熟成が進むと、菌が表面から内側に入ってゆきます」と書いています。店で買う牛の塊肉が、いつと殺され、凍結されたかどうか、どれだけ熟成されたかは、たいてい分かりません。前提が分からない肉では、1cmの処理で足りるという保証が成り立ちません。

中心をどこまで加熱するか表面の条件をどう扱うか根拠
中心の基準を満たす(特定加熱食肉製品の製造基準。中心55℃97分〜63℃瞬時など)別に確かめなくてよい。表面側は中心より長く高い温度にいる告示第370号 特定加熱食肉製品の製造基準、Q&A Q3-1
中心63℃30分・75℃1分などの加熱条件を満たす同上厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」
中心の基準より下で止める(タタキ・中が生のローストビーフ)表面の条件が独立して要る。ただし前提(凍結・熟成・と殺からの日数)を家庭では確かめにくく、扱いは生食用食肉生食用食肉の規格基準、令和4年9月16日通知

出典:食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)特定加熱食肉製品の製造基準、厚生労働省「生食用食肉(牛肉)の規格基準設定に関するQ&A」Q3-1、同「食肉の加熱条件に関するQ&A」、同「腸管出血性大腸菌による食中毒防止の徹底について」(令和4年9月16日)。

焼き目を付けるのは、低温調理の前でも後でもかまいません。どちらにしても、焼き目は香りと色の工程で、安全の条件を満たした証拠にはなりません。

表面の処理で足りる肉、足りない肉

表面を処理すれば中を残せる、という理屈が使えるかどうかは、菌がどこにいるかで決まります。

肉と状態菌がいる場所表面の処理で足りるか安全をどの条件で守るか
牛の塊肉(凍結・熟成・刺す・漬けるをしていない)主に表面から1cmまでの層規格基準の方法なら条件を満たせる。焼き目では満たせない中心の基準か、規格基準の方法
牛の塊肉(凍結した・熟成が進んだ・刃で筋を切った・調味液に漬けた)1cmより奥にも入りうる足りない中心の加熱条件(63℃30分など)
挽き肉・成形肉全体に散っている足りない中心の加熱条件(挽き肉の低温調理の温度と時間)
牛レバー内部表面の処理の道が無い。生食用としての販売・提供は禁止(平成24年7月1日から)中心の加熱条件(レバーの低温調理の温度と時間)
豚肉内部までE型肝炎ウイルスに汚染されていることがある足りない。表面を処理しても中心の下限は動かない中心63℃30分又は同等以上(低温調理の豚肉の温度と時間)

出典:内閣府 食品安全委員会「豚の食肉の生食に係るQ&A」Q2(牛肉は主に表面、豚は内部まで)、生食用食肉の規格基準 加工基準(5)(6)。

規格基準に適合した生食用の牛肉であっても、厚生労働省は子ども、高齢者など食中毒に対する抵抗力の弱い人は生肉を食べない、食べさせないよう求めています(Q&A Q32)。表面の条件を満たすことは、生の肉の危険をゼロにすることではありません。

低温調理の安全の中でのこの記事の立ち位置

低温調理の安全は、殺す・増やさない・確認できるの3つの条件でできています。この記事は、そのうち「殺す条件」を、表面という場所に限って深く見たものです。同じ安全の記事群とは、次のように問いが分かれています。

記事答えている問いこの記事との違い
この記事表面を処理するとは、深さ何cmを何℃で何分か。焼き目はそれを満たすか表面という場所に対する条件そのもの
低温調理のローストビーフの温度と時間牛の塊肉で、中心と表面の2本の条件をどう組むかあちらは牛という食材で2本をどう組むか。こちらは表面の条件の中身
75℃1分と63℃30分が同等な理由何℃で何分なら同じ殺菌効果かあちらは場所を問わない温度と時間の換算。こちらは「どこを」の問い(深さ1cm)
低温調理の中心温度の測り方中心温度をどう測れば条件を満たしたと言えるかあちらは中心という測定点。こちらは表面から1cmという測定点
危険温度帯は何℃か菌を増やさない温度帯と時間あちらは増やさない側の条件。こちらは殺す側の条件を表面に限った話
低温調理は温度計なしで成り立たない中心温度を測る道具が無いとき何ができないかあちらは中心を測る道具が無い場合。こちらは表面という、そもそも測りにくい場所の条件
低温調理で加熱しても死なない相手芽胞(がほう)・毒素・寄生虫・ウイルスなど、加熱で処理できない相手あちらは加熱で処理できない相手。こちらは加熱で処理できる相手を表面で処理する話
真空パックはなぜ危険か袋の中から酸素を抜くことが菌に何をするかあちらは袋の中の気体の条件。こちらは肉の外側の層の条件

料理として何が変わるかで言えば、中心の条件を満たす作り方なら、表面は焼き目の香りと色のためだけに焼けばよく、焼き時間を安全のために延ばす必要はありません。中心を生で残したいなら、焼き目ではなく規格基準の方法が要り、家庭ではその前提を確かめにくい。この2つを分けておけば、焼き方は味の側だけで選べます。

仕上がりも2つの道で違います。中心の基準で作ると、中心は55〜60℃の帯で赤からピンクの色(低温調理のローストビーフの温度と時間)と、加熱された肉の締まった歯ごたえになります。表面の処理で中を生のまま残す道では、断面の中は生の赤と、生肉のやわらかい食感のままです。タタキらしさを求めるなら後者ですが、その道を選ぶと扱いは生の肉になる、という交換が付いてきます。

うまくいかせる条件

条件外すとどうなるか
安全は中心温度で確かめる(中心の基準か、63℃30分などの加熱条件)焼き目で殺菌できたと見なすと、中心も1cmの層も条件の温度に届かないまま食べることになる
表面の処理で中を残すなら、深さ1cmの温度で確かめる。温度計は肉の側面から、表面と平行に、表面から1cm下の位置へ深く刺す表面の温度や湯にくぐらせた時間で見なすと、1cmの層は60℃に届かない
湯で処理するなら、袋の空気を十分に抜き、湯量を肉に対して十分に取る(検証例は300gに約10L)空気が残った面は熱が遅れ、湯量が少ないと肉を入れた瞬間に湯温が落ちる
加熱したらすぐ氷水で冷やし、中心温度計で中心が4℃以下になったことを確かめる中心まで熱が入り続けるか、菌が増える温度に長くいる
凍らせた肉・熟成が進んだ肉・刺した肉・漬けた肉は、表面の処理に頼らない菌が1cmより奥にいるので、表面を処理しても中に残る
中が生だった回復できる
なぜ
焼き色はメイラード反応が表面の数ミリで起きた結果で、熱伝導が遅く、深さ1cmも中心も条件の温度に届いていません
どうする
袋に入れて湯に戻し、中心温度の三か所の最低値が中心の条件(55℃なら97分)を満たすまで加熱します
次から
焼き目は香りと色の工程として扱い、安全は中心温度で確かめます
火の通りにムラが出た回復できる
なぜ
熱伝導で温度が届く時間は深さのおよそ2乗で増えるので、湯にくぐらせても表面だけが60℃を超え、1cmは届きません
どうする
表面の処理で済ませず、中心の条件を満たすまで加熱し直します
次から
条件は1cmの温度で確かめます。温度計の先端を表面から1cmに刺し、60℃に届いてから2分を数えます
袋が浮く回復できる
なぜ
袋に残った空気は水より熱を伝えにくく、湯に触れない面だけ熱の入りが遅れました
どうする
袋の空気を抜き直すか、重しで袋全体を湯に沈めてから加熱を続けます
次から
袋の空気を十分に抜いてから湯に入れます(厚労省も十分な脱気を求めています)

まとめ

  1. 牛肉の表面の条件は「表面から深さ1cm以上を60℃で2分以上」です。 袋に密封して加熱し、速やかに4℃以下へ冷やすところまでが1つの条件です。菌は1時間で1cmに入るので、条件は面ではなく深さで書かれています
  2. 深さ1cmは毎回は測れないので、湯の温度と時間に置き換えて満たします。 同じ大きさの肉の1cmに温度計を刺して湯温と時間を決め、以後はそれを記録します。国の検証例は250〜300gの肉を85℃の湯約10Lで10分、そのあと氷冷です
  3. フライパンの焼き目は、この条件を満たした証拠になりません。 1cmの温度を測っておらず、加熱の量も検証例とは大きく違います。焼いて1cm削るのを2回やっても菌は残り、国は焼いて冷やしたレアの肉を生の肉として扱います
  4. 低温調理なら、安全は中心の基準で確かめます。 中心が基準を満たせば、表面は中心より長く高い温度にいたので、別に確かめる必要はありません。表面の条件が独立して要るのは、中心を生で残す料理だけです

参考文献

  1. 厚生労働省「生食用食肉(牛肉)の規格基準設定に関するQ&A」(平成23年9月28日、最終改正平成24年2月2日)(深さ1cm・60℃2分の根拠と、条件を湯温と時間で設定する方法について)
  2. 食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)生食用食肉の加工基準(千葉県掲載の条文)(加工基準(5)〜(7)の原文について)
  3. 厚生労働省「腸管出血性大腸菌による食中毒防止の徹底について」(令和4年9月16日 薬生食監発0916第1号)(表面を焼いた後に冷却した肉の扱いと、食安発0912第7号の運用上の注意について)
ほか7件を見る
  1. 岡山市保健所検査課「生食用食肉の規格基準に関する一考察」(直火で焼いて表面下1cmを切除した牛肉の検査結果について)
  2. 岡山市「生食用食肉の『加工』を行うための点検表」(加熱殺菌の条件の決め方と記録について)
  3. 栃木県「生食用の牛肉の基準が定められました」(湯引き等の簡易な加熱方法について)
  4. 内閣府 食品安全委員会「豚の食肉の生食に係るQ&A」(牛肉は主に表面、豚は内部まで汚染されうるという整理について)
  5. 内閣府 食品安全委員会「肉を低温で安全においしく調理するコツをお教えします!」(熟成で菌が内側へ入ることと、牛モモ肉の到達時間について)
  6. Douglas Baldwin「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」(肉の厚みが2倍になると加熱時間が約4倍になることについて)
  7. 厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」(中心63℃30分・75℃1分などの加熱条件について)