挽き肉の低温調理の温度と時間|挽いた時点で「表面を焼けば」が使えなくなる

挽き肉の低温調理の温度と時間|挽いた時点で「表面を焼けば」が使えなくなる

この記事でわかること

  • 挽き肉・成形肉の中心は63℃30分、または75℃1分など同等の条件に入れること
  • 挽く・成形する・刺すと、表面にいた菌が肉全体に散ること
  • だからかたまり肉にあった「中心を低温で止める食感の窓」が消えること
  • 65℃のハンバーグが安全なのは条件を超えているからで、問題は「なぜ55℃にできないか」であること

挽き肉やハンバーグを低温調理しようとレシピを調べると、65℃という数字がよく出てきます。かたまりの牛なら55℃でローストビーフにできるのに、同じ牛でも挽くと65℃に上がるのはなぜでしょうか。温度を下げると危ないのでしょうか。

この記事の答えは、挽き肉・成形肉の中心部を63℃で30分間以上、または75℃で1分間以上(これと同等以上) です。そして本題は、なぜかたまり肉の低い温度が使えなくなるのかです。理由は一つで、挽いた時点で、表面にいた菌が肉全体に散るからです。

挽き肉は、かたまり肉の「表面を焼けば」が通じない

答え|中心63℃30分、またはこれと同等(75℃1分)

挽き肉・成形肉の低温調理で満たすべき条件は、中心部の温度を63℃で30分間以上、または75℃で1分間以上です。これと同じ殺菌効果を持つ組み合わせとして、厚生労働省は65℃15分・66℃11分・70℃3分なども示しています。

中心温度(℃)中心温度に達してからの維持時間
6330分
6515分
6611分
703分
751分

出典:厚生労働省「食肉の加熱条件に関するQ&A」。いずれも湯の温度ではなく、中心温度がその値に達してからの維持時間です。温度と時間が交換できる理由は75℃1分と63℃30分が同等な理由にあります。

なぜ「表面を焼けば中が生でもいい」が効かないのか

低温調理のローストビーフの温度と時間では、牛のかたまり肉の条件が中心と表面の2本に分かれていました。菌は主に表面にいるので、表面だけ処理すれば、中心は好みの食感で選べる——だから中心を55℃に止めてロゼのローストビーフにできました。

挽き肉では、この前提が崩れます。挽くと、表面にいた菌が肉全体に混ぜ込まれるからです。表面と中心の区別が消え、中心も「菌がいる場所」になります。そうなると、表面だけを処理する手は使えません。中心まで殺菌条件を満たす、1本立てに戻ります。

これが「ハンバーグだけ温度を下げられない」の正体です。かたまりの牛にあった、中心を低温で止める食感の窓が、挽いた時点で消えます。

この記事が扱う範囲

この記事が扱うのは、低温調理の食材別の記事のうち、挽き肉・成形肉・刺して味を入れた肉 の節点です。かたまりの肉は各食材の記事に、具体的なハンバーグのレシピや成形のコツは別の場所に委ねます。ここでは温度と時間の決め方に絞ります。

かたまり肉挽き肉・成形肉
菌がいる場所主に表面肉全体(表面の菌が散っている)
処理する対象表面(中心は食感で選べる)中心まで全体
中心温度の自由度食感の窓がある(牛なら55〜63℃)窓なし。殺菌条件に入れる

挽く・成形する・刺すと、表面の菌が内部へ移る

挽く|表面の菌が全体へ練り込まれる

食品安全委員会は、かたまり肉について「菌は肉を切った表面には付いていますが、塊肉の内側にはいません」と書いています。挽くという操作は、この表面を機械で細かく切り刻み、全体に混ぜ込む操作です。元は表面にいた菌が、断面のどこにでも存在するようになります。

だから挽き肉は、新鮮でも「中は安全」が成り立ちません。合挽きのように複数の肉を混ぜれば、菌の由来も増えます。

刺して味を入れた肉|切れ目から菌が内側へ入る

同じ資料は、「包丁で切れ目を入れたりすることによって菌が内側に入り込むこともあります」とも書いています。これは挽き肉だけの話ではありません。

  • ジャカード(細い針を一面に刺して繊維を切る加工)
  • 筋切り(包丁で筋に切れ目を入れる)
  • ブラインインジェクション(調味液を注射器で注入する)

これらで加工した肉は、見た目はかたまりでも、表面の菌が内部へ運ばれています。スーパーで「やわらか加工」と表示された肉も同じで、挽き肉と同じ扱いになります。刺して味を入れた肉は、もうかたまりではありません。

だから中心が「新しい表面」になる

成形肉・結着肉(けっちゃくにく。細切れを固めたもの)も同じ考え方です。公的な注意喚起は、「挽肉やハンバーグ、細切れの肉を固めた結着肉は、中まで菌が侵入している可能性があるため、中心部までしっかり火を通す必要がある」と整理しています。

挽き肉の温度と時間は、中心を殺菌条件に入れる

肉種で下限が変わる

中心に課す条件そのものは、さきほどの一覧(63℃30分と同等)です。ただし下限は肉種で変わります。

挽き肉の種類中心の下限相手根拠
挽き豚・豚入りの合挽き63℃30分(又は同等)E型肝炎ウイルス等豚の食肉の規格基準(内臓・筋肉を問わず対象)
挽き牛(ハンバーグ)63℃30分(又は同等)腸管出血性大腸菌(O157等)食肉の加熱条件のQ&A
挽き鶏63℃30分(又は同等75℃1分)カンピロバクター・サルモネラ鶏の加熱条件

出典:厚生労働省「豚の食肉の基準に関するQ&A」「食肉の加熱条件に関するQ&A」。挽き豚は、豚の中心63℃30分という下限が規格基準の条文として決まっています(詳しくは低温調理の豚肉の温度と時間)。挽き鶏は少し事情が違います。鶏は筋肉そのものにカンピロバクターがいるので、かたまりでも中心まで加熱する下限(63℃30分)が最初から決まっていて、挽いても下限は変わりません(鶏むね肉の低温調理)。公的な注意喚起では、鶏はより安全側の中心75℃1分で示されることが多い相手です。

挽き牛には、かたまりの食感の窓が使えない

挽き牛で気をつけたいのは、かたまりの牛にあった中心55〜63℃の食感の窓が使えないことです。かたまりの牛は、特定加熱食肉製品の製造基準で中心55℃97分から63℃瞬時までの9段階が公表されていて、表面を別に処理する前提で、この窓から好みの食感を選べました。

挽いた時点で、表面にいたO157等が全体に散ります。中心もその対象になるので、中心を55℃に止める選択肢は消えます。実務では中心63℃30分、または維持時間の短い65℃15分・75℃1分を選びます。

65℃のハンバーグが安全な理由

市販のレシピには「65℃で1時間10分〜1時間50分」といった低温調理ハンバーグの設定があります。これが安全なのは、65℃15分という維持条件を大きく超えているからです。65℃を1時間以上保てば、殺菌条件は十分に満たされます。

ですから問題は「65℃で安全か」ではありません。なぜ55℃にできないのかです。答えはこの記事の通りで、挽いた時点で中心が表面と同じ扱いになったからです。

厚みも効いてきます。厚み1.5〜2cmのハンバーグで、中心が設定温度に届くまで60分前後かかる例があります。総加熱時間は「中心が届くまでの時間」と「届いてからの維持時間」の和です。平たく成形するほど到達が速く、全体が同時に条件を満たします。

食材別の中でのこの記事の立ち位置

兄弟との違い|挽き肉は汚染を自分で内部へ運ぶ

低温調理の食材別の記事は、温度を縛っているものが何かで分かれています。この記事が引き受けているのは、挽き肉・成形肉・刺して味を入れた肉の部分です。

食材温度を縛っているもの汚染がどこにあるか挽き肉との違い
挽き肉・成形肉(この記事)安全。中心63℃30分が下限で、食感の窓が無い肉全体(加工で表面から運んだ)—
牛のかたまり安全(表面)と食感主に表面の層かたまりは表面処理で中心を食感に使える。挽くとその前提が消える
豚安全。E型肝炎ウイルスが63℃30分の下限を決める筋肉の内部まで豚は元から内部条件。挽き肉は「かたまりなら緩められた条件が戻る」話で向きが逆
鶏むね肉安全。厚みからの到達時間が主題筋肉そのもの鶏は筋肉自体が汚染。挽き肉は表面の菌が機械で内部へ運ばれたもので経路が違う
魚の切り身食感寄生虫は加熱でなく冷凍で処理挽き肉は安全が温度を縛る。魚は食感が縛る
レバー・内臓安全。中心63℃30分で口溶けの窓が無い組織の内部(生体内から)挽き肉は外から来た汚染を自分で内部へ運んだ。内臓は最初から内部に危険がある

挽き肉だけが、汚染を自分で内部へ運んだ食材です。 かたまりなら表面だけだった菌を、挽く・成形する・刺すという加工で中心へ移しました。だから、かたまりの手(表面処理)も、かたまりの自由(食感の窓)も使えません。食材ごとの決め方の枠組みは低温調理の食材別の温度と時間にまとまっています。

この記事が答えていないこと

この記事が答えていないことも書いておきます。なぜ温度と時間が交換できるのかは75℃1分と63℃30分が同等な理由の担当です。加熱していないあいだに菌が増える条件は低温調理の危険温度帯が扱います。なぜ低温で加熱するとしっとりするのかという食感の原理は低温調理で肉がしっとりする原理にあります。具体的なハンバーグのレシピや成形のコツは、この記事の範囲外です。

まとめ

挽き肉の低温調理は、次の3点で決まります。

  1. 挽く・成形する・刺すは、表面にいた菌を肉全体へ運ぶ操作です。 だから中心が「新しい表面」になり、かたまり肉の「表面を処理すれば中心は食感で選べる」が使えません
  2. 挽き肉の中心は殺菌条件の一覧に入れます。 中心63℃30分、または65℃15分・70℃3分・75℃1分などです。挽き豚・合挽きは豚の規格基準、挽き鶏は75℃1分寄り、挽き牛はかたまりの食感の窓が消えて中心63℃30分以上に戻ります
  3. 65℃のハンバーグが安全なのは、条件を超えているからです。 問題は「なぜ55℃にできないか」で、答えは中心が表面と同じ扱いになったからです。刺して味を入れた肉も、見た目はかたまりでも同じ扱いです

手元の挽き肉でやることは、中心温度計で到達を確認し、下限を満たしたうえで維持時間を最短に保つことです。色では判断できません。平たく成形して中心への到達を速くし、63℃30分ちょうどを狙って締まりすぎを避ける——挽き肉では、これが温度の決め方になります。

よくある失敗と対策

中が生だった回復できる
なぜ
中心が63℃に届く前から維持時間を数えていました。挽き肉は中心も表面と同じ扱いです
どうする
いちばん厚い場所に中心温度計を刺し、63℃到達を確認してから30分を数え直します
次から
総加熱時間ではなく「到達してから維持」で計画します。色では判断できません
パサついた諦める
なぜ
アクチンが変性しています。66℃から筋繊維が強く縮み、脂と水分を押し出します
どうする
抜けた水分は戻りません。次回は中心63℃に達してから30分という下側を選びます
次から
維持時間を延ばしすぎず、63℃30分ちょうどを狙います。つなぎや脂肪で離水を抑えます
火の通りにムラが出た回復できる
なぜ
成形した肉の厚みが一定でないため、厚い場所だけ中心温度が遅れています
どうする
いちばん厚い場所に温度計を刺し直し、63℃に達してから維持時間を数え直します
次から
厚みをそろえて平たく成形します。平たいほど中心への到達が速くなります